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電子書籍はどこまで来たのか|15年前の予...

電子書籍はどこまで来たのか|15年前の予測をいま振り返る

はじめに


ブログを始めてから、本を読む機会がぐっと増えました。
もともとは「本=紙」という感覚だったのですが、電子書籍の便利さに気づいてからは、気づけばほとんど電子で買うようになっています。

とはいえ、まだ電子書籍のラインナップは十分とは言いきれず、「これ読みたいのに電子版がない…」と少し残念に思うこともちらほらあります。

電車の中でも電子書籍を読んでいる人は珍しくなくなりましたが、書店に行けば紙の本もちゃんと並んでいる。
このバランスを見ると、電子書籍はいまどの段階にいるのか、そしてこれからどう広がっていくのかが気になってきます。

今回は少し古い本ですが、2010年に筑摩書房から出ている歌田明弘氏の『電子書籍の時代は本当に来るのか』を読んでみました。

当時の予測がどれくらい当たっていたのかを振り返りつつ、これからの流れも考えてみます。

電子出版市場の現状


本書の内容を振り返る前に、まずは現状の電子出版市場について見ていきましょう。

出版販売額

出版市場の売り上げは1996年をピークに、1997年以降は長く下り坂が続いています。
特に雑誌の落ち込みは大きく、書籍もそこまで急ではないものの、じわじわと減少している状況です。

一方で、電子出版市場はここ10年ほどで大きく伸び、今では紙の書籍と同じくらいの規模にまで広がっています。
この流れを見ると、いずれは紙を追い越していく可能性もありそうです。

電子出版市場のジャンル別内訳

中でも目立つのがコミックの強さで、電子出版の中ではおよそ9割を占めています。

出版市場全体で見ても、紙と電子を合わせたコミックのシェアは4割を超えていて、かつての雑誌に代わる“支え役”になっている印象です。

年代別電子書籍利用率

電子書籍の利用率は、主に20〜40代で高い傾向があります。

電子出版の大半がコミックであることを踏まえると、この数字は「電子コミックの利用度」として見るのが自然かもしれません。
そう考えると、50〜60代以上では利用が伸びにくいのも、納得できる気がします。

こうした現状を踏まえつつ、本書の予測がどの程度当たっていたのかを見ていきます。

電子書籍の発展経路


スマートフォンは多機能携帯電話とも呼ばれ、携帯電話の一種である。金額ベースで二〇〇九年度の電子書籍の八九%を占める携帯電話向けはコミックスが多い。スマートフォンでは画面が少し大きなものもあるが、それぐらいのことで、はたして携帯電話と違った読書傾向が出てくるだろうか。長文のテキスト著作物などは、やはりなかなか読む気にはならないのではないか。

本書で語られているこの予想は、今の状況と照らしてみても、割と当たっていると言えそうです。

スマホがないと注文できない飲食店があるくらい、すっかり生活に入り込んだスマートフォンですが、電子出版の中心は今もコミックのままです。
長文のテキストをスマホでじっくり読む、というスタイルは、そこまで主流にはなっていません。

そう考えると、スマホはどちらかというと電子コミックを気軽に楽しむための端末として広がってきた、と見るほうが自然かもしれません。

文字中心の電子書籍の売り上げを大きく押し上げる存在には、今のところなっていないようです。

「本を読まない人向けの電子書籍」といった発想に立つならば、電子書籍はやはりマイナーな市場にとどまらざるをえない。(中略)本好きが読書端末を購入するかどうかが、本格的に電子書籍市場が成立するかどうかの分かれ目だ。

いまや電子出版市場は、紙雑誌を追い越し、紙書籍と同じくらいの規模にまで成長しています。
少なくとも「マイナー」と呼ぶには、少し大きくなりすぎた印象です。

ただ、その内訳を見ると、今も約9割がコミックです。
本書が書かれた当時と構造自体はあまり変わっておらず、「本好きが読書端末を買って、書籍や雑誌を読むようになった」という流れが強いわけでもなさそうです。

そもそも出版市場全体が縮小傾向にあることを考えると、「読む・読まない」という個人の習慣以上に、本そのものの立ち位置がゆっくり変わってきているのかもしれません。
仮にこれから本好きが電子書籍へ移行したとしても、市場全体の勢いを大きく押し上げるかというと、そこは少し想像しづらいところがあります。

こうして見ると、今の電子出版市場は「読書端末が広く普及したから成立した」というよりも、「コミックというコンテンツの強さに支えられて広がってきた」と考える方がしっくりきます。

App StoreやGoogle Play Storeに魅力的なアプリが並び、Netflixをはじめとするコスパの良いサブスクサービスが当たり前になった今日、テキスト中心の本に価値を見出す人が相対的に減っているという見方もできそうです。

デジタル化に対する課題


本を見つけにくいというのはオンライン書店一般にいえることだ。(中略)電子媒体では(検索で見つけられない本については)探しにくく、また売るほうも売りにくいショップになってしまう。

この指摘は、正直少し引っかかるところがあります。
何度か読み返してみても、意図が掴めませんでした。

「本の見つけやすさ」という点だけで見れば、やはりオンラインストアに分があります。
検索という強力な手段がある以上、目的の本にたどり着くまでのスピードや正確さは、実店舗よりも優れています

当時は機能面で不十分な部分もあったはずですが、データをもとに表示するという仕組み自体は今も変わっていません。
この前提に立てば、「探す」「見つける」という行為は、むしろオンラインストアの得意分野だと考えるほうが自然です。

ただ一方で、レコメンドの偏りはオンライン特有のクセとも言えます。
似たジャンルばかりが表示されて、新しい分野に触れにくい、という経験はわりと多くの人がしているでしょう。

そう考えると、「思いがけない一冊との出会い」という意味では、実店舗のほうが直感的でわかりやすいという見方もできます。

とはいえ、実店舗には物理的な制約があります。
置ける冊数には限りがあるので、出会いの幅という意味では、必ずしもオンラインより優れているとも言い切れません。

日本とアメリカは文化的にどちらがすぐれているのかなどといったことを世界中のウェブ・ページを対象に検索して調べれば、アクティヴなネット人口の多い国の主張が検索結果の上位に出てくることが予想される。多数派が断然有利になる。

このあたりの検索アルゴリズムに関する指摘も、今読むと少し時代を感じます。

現在は、検索結果が単純に「全体の多数派」に引っ張られるというより、位置情報や個人の履歴によって最適化される側面がかなり強くなっています。
同じ検索ワードでも、人によって検索結果が違う、というのが当たり前になりました。

その意味では、「多数派が断然有利」というよりも、ユーザーごとに情報が最適化され、結果として偏りが生まれやすい構造になっていると捉えた方がしっくりきます。

また、視点を変えて「多数派=人気」と考えれば、多くの人に支持されている情報が上位に出てくること自体は、そこまで不自然な話でもありません。
現実でも、人気や支持の広さはひとつの判断材料になります。

日本では完璧にしないとクレームがきてたいへんなことになる。(中略)ときに本の天地もひっくり返ったようないい加減なかたちでグーグルがスキャンして公開してしまっているのは、日本では通用しない「あとで直せばいい」という感覚があるからではないか。

この指摘については、著者のバックグラウンドもあってか、少し出版業界の感覚に引っ張られすぎているようにも感じました。

確かに分野によっては「あとで直す」が許されにくい場面もありますが、それを日本全体の価値観として捉えるのは、やや大きく括りすぎな気もします。

実際、Webコンテンツやアプリ、ゲームなどはリリース後のアップデートを前提にした作り方が一般的です。
さすがに天地が逆になるような致命的なミスは問題ですが、公開後に修正していくこと自体は、かなり日常的に行われています。

むしろ、情報の鮮度がすぐに変わっていく現代社会では、「最初から完璧であること」にこだわりすぎる方が、少し動きづらくなる場面もありそうです。

本書全体を通して、ややシニア世代特有のデジタル化への距離感のようなものがにじんでいる印象はありました。
あるいは、当時の読者層に合わせて、あえてそうした文脈で書かれているのかもしれません。

様々な角度からデジタル化の課題が語られていますが、結局のところ、紙・電子・AIといった媒体の違いに関わらず、最後は受け手側の情報処理能力に委ねられる部分が大きいように感じます。

情報をどう選び、どう受け取るか。
そのリテラシー次第で見え方はかなり変わります

極端に言い切るのも少し乱暴ですが、これらの指摘は「慣れている物の方が扱いやすい」というシンプルな話に収まる部分もありそうです。

紙対電子の構図と再販制度


本書は、個人的にはあとがきがいちばん興味深く読めました。
この部分だけでも目を通す価値はありそうです。

読者にとって電子書籍を価格的にも魅力的なものにする(中略)出版社のほうは、印刷版よりも大幅に安くすることには抵抗がある。(中略)こうした問題は、再販制の維持と密接に結びついている。

著者の歌田氏は、電子書籍を普及させるには、アメリカのように紙より安い価格設定が求められるとしつつ、日本の再販制度の存在に懸念を示しています。

独占禁止法では、本来、小売業者に販売価格を守らせる「再販売価格の維持」は、自由競争を妨げるものとして原則禁止されています。

ただし、書籍・雑誌・新聞・音楽用CDなど一部の著作物については例外が認められており、「著作物再販適用除外制度」として、実質的に出版社側が価格を決める仕組みが成り立っています。

一方で、電子書籍は物として流通するわけではなく、あくまでデータ配信です。
そのため、この再販制度の枠外にある、というのもひとつのポイントです。

再販制適用の紙の本と適用外の電子書籍という一物二価は当初こそ成り立つかもしれないが、電子書籍市場の成長とともに危ういものになっていき、やがては再販制を行き詰まらせる。

本書の出版から約15年が経った今も、この制度に大きな手が入っていないのは少し意外ですが、この見立て自体はかなり的を射ているように感じます。

紙の市場が縮小し、電子が伸びていく出版業界。発行部数が落ち続ける新聞、物理メディアから配信へと軸足が移った音楽業界など、再販制度を取り巻く環境はこの十数年で大きく変わりました。

もともと「文化の多様性」や「どこでも同じ価格で手に入ること」を目的にした制度ですが、今はどちらかというと、縮小していく物理流通を支える安全装置のような役割が強くなっている印象です。

見方を少し変えると、緩やかに縮んでいく市場だからこそ、大きく舵を切れない
その結果として、電子への移行もどこか中途半端になっている――そんな構図も見えてきます。

再販制度は、その変化を和らげているとも言えるし、先送りしているとも言える。
どちらに見えるかで、この制度の評価も変わってきそうです。

今後の電子書籍の行く末を考える


本書を読んで、個人的に「こうなったらいいな」と思ったことを、少し妄想気味に書いてみます。

まず、出版社は「自分たちが何を提供しているのか」を改めて考える必要がありそうです。
小説やコミックのようなクリエイティブ作品を除けば、多くの場合は「価値のある情報」を届けているはずです。

本の本質は、その情報を1つにまとめたパッケージにあります。
紙である必要はなく、データでも、極端な話ほかの形でも、情報そのものの価値は変わりません
あとは受け手がどの媒体で受け取りたいか、という好みの問題になってきます。

ITは情報を扱う技術なので、電子媒体に寄っていくほどコンテンツの提供はシンプルになり、コストも下がっていく。
この流れ自体は、わりと自然なものに思えます。

今の紙中心の市場は、ある意味で守られているぶん、大きな変化が起きにくい環境でもあります。
もう少し自由度の高い競争の中で、もはや「本」や「電子書籍」に捉われない新しい形式の「情報の届け方」が出てきても面白いかもしれません。

今後は、軽めの情報ほど電子化が進んでいき、紙は少し特別な存在として残るという流れが考えられそうです。
それでも紙がいい、というユーザーは完全には消えない気がします。

電子に人が流れたからといって、市場全体がそのまま縮むとは限りません。
もし縮み続けるのだとしたら、それは媒体の問題というより、「その情報にどれだけ価値があるのか」という、もう一段根っこの話なのかもしれません。

さいごに


本の内容は全体的に、やや近い未来に寄った予測が多く、視野が狭く感じる部分もありました。
意図をつかみにくい箇所も多く、読み進めるのに思ったより時間がかかった印象です。

とはいえ、具体例の豊富さや、根っこの部分に対する分析は読みごたえがありました。
15年ほど前の本ということもあって、いまの感覚とズレるところはありつつも、どこか対話しているような感覚で読めたのは面白かったです。

電子書籍の流行そのものには、そこまで強い関心はないのですが、質の高い情報を届けてくれる出版の役割は、これからも続いてほしいところです。
大きく変わらないまま静かに沈んでいく、という展開だけは避けてほしいなと思います。

参考サイト