アニメ『ルックバック』感想|創作のすべてが詰まった物語
- のろ

- 12 分前
- 読了時間: 5分

はじめに
本作は、『チェンソーマン』『ファイアパンチ』などで知られる藤本タツキ先生による漫画が原作です。
監督・脚本・キャラクターデザインを務めるのは、『借りぐらしのアリエッティ』や『メアリと魔女の花』など、数々の大作に原画スタッフとして参加してきた押山清高。
アニメーション制作は、押山監督が代表を務めるスタジオドリアンが担当しています。
自分の漫画の才能に絶対的な自信を持つ少女・藤野は、不登校の同級生・京本と出会い、その圧倒的な画力に衝撃を受けます。
次第に2人は互いに共感し合い、共に漫画を描く関係へと発展していきます。
漫画へのひたむきな思いを抱える2人の少女が紡ぐ、クリエイターへの賛歌とも言えるこの物語は、2024年6月28日に劇場公開されました。
この記事では、ネタバレになる要素を減らすため、あらすじやストーリー展開などは詳しく説明しません。そのため、作品を視聴していないと、理解できない考察なども含まれます。予めご了承ください。
原作との比較
全体を通して、アニメ版は原作にかなり忠実に作られています。
原作が約140ページほどの単行本1冊ということもあって、削られた演出はほとんどありません。
むしろ行間を補うような、適切な追加演出がいくつか盛り込まれている印象です。
また、作品全体が58分と比較的短いため、オリジナル要素はもちろん、ストーリー構成そのものに大きな改変も見られません。
ただ、劇場アニメという枠組みで考えると、個人的にはもう少し尺を伸ばし、アニメ版ならではのオリジナル展開も見てみたかったところです。
「ルックバック」の意味
本作は、勉強机で漫画を描く小学生の藤野の背中から始まり、大人になり漫画家となった藤野が、同じように背中を向けて漫画を描く姿で幕を閉じます。
どちらのシーンも、長い時間「背中」を見せる構成になっており、タイトルの通り、彼女が漫画を描いている背中を見てほしい――そんなメッセージを視聴者へ静かに訴えかける仕掛けになっています。
また、作中では背中を象徴的に扱う場面が他にも多く見られます。
藤野のサインが背中に書かれた京本のはんてん
「京本も私の背中みて成長するんだなー」という藤野の言葉
京本が描いた、題名そのままの4コマ漫画『背中を見て』
京本は常に藤野の「背中」を見て憧れ、その姿を追いかけてきました。
一方で藤野も、自分が前を走ることで京本を引っ張っているという意識を持っていたことは、作品全体を通して伝わってきます。
そして終盤では、藤野が自分自身の人生(背中)を振り返りつつ、京本が残した作品や想いを受け取ることで、再び前へ進もうとする姿が描かれます。
藤野の背中を追い続けた京本。
京本の背中(遺したもの)を見て歩き出す藤野。
この対比こそが、本作のタイトルを象徴する構図と言えるでしょう。
何のために漫画を描くのか
藤野「漫画ってさあ…。私描くのはまったく好きじゃないんだよね」 京本「じゃあ藤野ちゃんは、何で描いてるの?」
という会話がありますが、その理由は最後まで明確には語られません。
原作者・藤本タツキ先生はインタビューで、
たまたま読んだ本から、「死と和解できるのは創造の中だけだ」というようなセリフがあって、すごくいいセリフだと思ったんですよね。(中略)それを軸にしようというイメージがありましたね。 出典:映画ナタリー 藤本タツキ先生インタビュー
と述べており、押山監督も、
この映画自体、「絵描きやクリエイターの賛歌になればいいな」という想いで作りました。 出典:Rolling Stone 押山清高監督インタビュー
と語っています。
これらの言葉から、藤野が京本の死を乗り越えて再び漫画を描く理由は、ネガテイブなものではなく“前を向くため”の行為だと読み取れます。
「まるで息を吸うように、楽しんで漫画を描いてしまったんだろうな」という気持ちで描きました。 出典:Rolling Stone 押山清高監督インタビュー
さらに監督は上記のようにも語っており、藤野にとって描くことは、もはや理由を必要としない、本能のような行為なのだと理解できます。
加えて、初めて自分の作品を理解してくれた京本が大切にしていた漫画を途中で放り出すことは、藤野の性格的にも耐えがたいものだったはずです。
藤野が漫画を描き続けるという選択は、創作に魅せられたクリエイターとしての宿命であると同時に、勝気な藤野らしい“前に進むための答え”だったと言えるでしょう。
さいごに
ルックバックは原作に忠実でありながら、細かな描写がより鮮明に補われています。
原作とアニメ版の解釈に食い違いがほとんど見られないことから、劇場アニメ化としては理想に近い形だと感じました。
作品全体を通して強いメッセージが直接語られるわけではありませんが、テーマは前向きで、見終わった後の余韻や満足感はかなり高かったです。


