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アニメ『ひゃくえむ。』感想|スポーツ漫画の皮をかぶった哲学書

  • 執筆者の写真: のろ
    のろ
  • 1月22日
  • 読了時間: 5分

総合評価


はじめに

本作は、『チ。―地球の運動について―』で一躍注目を集めた魚豊先生の連載デビュー作となるスポーツ漫画が原作です。


監督は、手描きアニメ映画『音楽』で国内外から評価を受けた岩井澤健治。

『東京卍リベンジャーズ』や『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』等で知られるむとうやすゆきが脚本を手がけ、岩井澤監督が代表を務めるロックンロール・マウンテンがアニメーション制作を担当しています。


物語は、生まれつき足の速いトガシと、現実から逃げるように走っていた小宮を中心に展開します。

トガシが小宮に走り方を教えたことをきっかけに、二人は100m走を通して、友でありライバルでもある独特な関係へと変わっていきます。

100mというわずかな距離に、人生のすべてをぶつける二人の“狂気”を描いた本作は、2025年9月19日に劇場公開されました。


この記事では、ネタバレになる要素を減らすため、あらすじやストーリー展開などは詳しく説明しません。そのため、作品を視聴していないと、理解できない考察なども含まれます。予めご了承ください。




原作との比較

原作のある作品ですし、(中略)自分がやりたいように作ってはいけない。 出典:アニメ!アニメ! 魚豊先生&岩井澤健治監督インタビュー

岩井澤監督がインタビューで語っている通り、アニメ化に際して原作から大きく改変した部分はほとんどなく、オリジナル要素もありません

全体を通して、原作への敬意と配慮が感じられます。


一方で、映画の尺の制約もあってか、以下のシーンはアニメでは省略されています。

  • 小学校時代の運動会でトガシが熱を感じる場面

  • 小宮とトガシのトンネルでの勝負

  • 高校時代の小宮に対する陰湿なイジメ

いずれも原作では二人の人生を象徴する重要な場面です。

アニメ版は原作に忠実な丁寧な作りでありながら、こうした部分が省かれたことで、原作ほどの臨場感までは届いていない印象でした。


決勝戦の作画は丸々1年かかりましたね。 出典:アニメ!アニメ! 魚豊先生&岩井澤健治監督インタビュー

岩井澤監督の言葉の通り、高校のインターハイ決勝の試合前から終了までの3分40秒をワンカットで描いたシーンは、本作でも圧倒的な存在感があります。


その他にも記憶に残るカットが非常に多く、構図へのこだわりの強さが随所にあらわれています。

単なるアニメ作品という枠を超え、劇場作品としての風格と迫力がしっかりと画面から伝わってきました。




「100m=人生」のメタファー

100m走自体が生きていることのメタファー(中略)「『なぜ走るのか』は『なぜ生きているのか』だ」というアナロジー 出典:『ひゃくえむ。新装版』 魚豊先生ロングインタビュー

原作者である魚豊先生が語る通り、本作における「100m」は単なる陸上競技ではなく、登場人物たちの人間性や価値観を浮き彫りにする“舞台装置”として機能しています。


作中、日本陸上界100m走の絶対王者として描かれる財津が引退を発表する際、次のような台詞を残します。

「希望。失望。栄光。挫折。疲労。満足。焦燥。達成。そして喜怒哀楽。全てを100mに詰め込んで、極上の10秒を味わってください。」

この言葉こそ、「100m=人生」という本作の核となるテーマを端的に表しています。




ラストシーンでなぜ結果を描かなかったか

本作のラストは、小学校から高校までの経験を積んだトガシと小宮が、日本選手権決勝という舞台で再び並ぶシーンです。


白熱した10秒が濃密に描かれますが、最終的にどちらが1位だったのかは、原作と同じく明示されません。

その理由について、魚豊先生はインタビューで次のように語っています。

勝ち負けにこだわっていた2人が勝ち負けを忘れ、走るのが好きだという感情に到達する。100mという勝負の世界から解放される瞬間というクライマックスを描きたかった 出典:『ひゃくえむ。新装版』 魚豊先生ロングインタビュー

これは視聴者の想像に委ねる“演出上のぼかし”ではなく、明確な意図とテーマに基づいた表現であることがわかります。




「真剣になる」というシンプルなメッセージ

他の作品と比べても、原作者とアニメ制作陣のメッセージは一貫しており、非常にわかりやすく提示されています。


日本選手権決勝の直前、「何の為に走るのか?」と疑問を投げかける小宮に対し、トガシは自身のこれまでを振り返りながら「真剣(ガチ)になる為」と答えます。


さらに、魚豊先生はインタビューで次のように語っています。

「どうせ死ぬけど、生まれてきてよかったと思えるようになりたい」 出典:『ひゃくえむ。新装版』 魚豊先生ロングインタビュー

ラストシーンの描き方も踏まえると、本作が伝えようとしているのは「勝ち負けとは別の基準で、どうせなら人生を真剣に生きよう」という、前向きで力強いメッセージだと解釈できます。




さいごに

アニメの感想記事でもたびたび書いていますが、私は作り手の想いを感じ取り、共感したいという気持ちが強く、クリエイティブな成果物には作者のメッセージを求めています。

その視点で見ると、本作は伝えたいことが明確で、多くの人が共感しやすい作品だと感じました。


一方で、原作に非常に忠実であるがゆえに、原作が持つ臨場感やインパクトを超えるところまでは達していなかった点は、少し残念でした。

どうせなら、わずかでもオリジナル要素を加えるくらいの遊び心があっても良かったのでは思いました。




参考サイト

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