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アニメ『ふれる。』感想|一致しない言葉と気持ち

  • 執筆者の写真: のろ
    のろ
  • 10月17日
  • 読了時間: 6分

総合評価


はじめに

本作は、『あの花』『ここさけ』『空青』の“秩父三部作”を手掛けた長井龍雪(監督)× 岡田麿里(脚本)× 田中将賀(キャラクターデザイン)による最新作です。

アニメーション制作は前作に引き続き、CloverWorksが担当しています。


キャストや主題歌も豪華な顔ぶれが揃い、制作規模の大きさや話題性からも、公開前から大きな期待を集めていた作品です。


舞台はこれまでの秩父から東京・高田馬場へと移り、“秩父三部作”に続く新たな青春群像劇として描かれます。

これまで女性主人公が中心だったシリーズに対し、本作では20歳の男性3人が主人公という異色の設定が特徴です。


2024年10月4日に劇場公開され、翌10月5日にはNetflixで全世界配信が開始されました。


この記事では、ネタバレになる要素を減らすため、あらすじやストーリー展開などは詳しく説明しません。そのため、作品を視聴していないと、理解できない考察なども含まれます。予めご了承ください。




『秩父三部作』に続く青春群像劇

個人的には、“秩父三部作”で描かれていたような三角関係をはじめとする複雑な恋愛模様には、あまり共感できないところがあります。


本作が「20歳の男性3人が主人公」と聞いたときは、そうした複雑さのない、よりすっきりとした青春ドラマを期待していました。しかし、その予想に反して、本作でもやはり複雑な恋愛模様が描かれています。期待があった分、この演出は少し残念に思いました。


とはいえ、ここまで一貫して描かれてきたテーマであることを考えると、この「複雑な人間関係」こそが、この制作陣におけるアイデンティティと言えるのかもしれません。


今まで3人でやってきた作品の中で最もリアルに近づいた 出典:RealSound 岡田麿里氏インタビュー

岡田氏が語っている通り、本作では登場人物一人ひとりの想いがより丁寧に描かれ、これまで以上に人間的で曖昧さを抱えた物語に仕上がっています。


おそらく、この複雑な恋愛模様は、単なる演出ではなく物語にリアリティと深みを与える核として機能しています。

その結果、誰も悪者にならない優しい世界観と、それでも避けられない切なさが生まれ、ファンタジーの中に確かな現実感をもたらしています。




舞台装置としての「ふれる」

本作の主人公・秋は、「わざわざ喋るの面倒だし、隠し事もない方が楽で良いと思うけど」と“ふれる”について語っています。

気持ちを言葉にするという行為には後ろ向きながらも、他人と通じ合うこと自体には肯定的であり、“ふれる”という存在をその両立を叶えるものとして受け入れています。


やがて、“ふれる”の能力が「問題の種になりそうな言葉や気持ちを取り除き、触れた相手に伝える」ものであることが明らかになります。

つまり、これまで“ふれる”を通じて交わされてきた言葉には、削ぎ落とされた本音の部分が存在していたことがわかります。


物語の終盤、秋・優太・諒の3人は、“ふれる”を介して築いてきた関係について「ずるしたんだ」と語っています

気持ちを伝えるという大切な行為を“ふれる”に委ね、自分たちの言葉で向き合う努力を怠っていたことへの悔いが、そこから感じられます。


この一連の流れから、“ふれる”は「言葉にする難しさ」と「気持ちが通じ合う喜び」という相反するテーマを象徴する存在として描かれていると解釈できます。

“ふれる”は単なるファンタジー要素ではなく、物語のメッセージをより鮮明に浮かび上がらせるための舞台装置として機能しているわけです。




気持ちの複雑さと、言葉にする難しさ

もともと僕ら3人はキャラに寄り添ったつくり方をする性分なので、(中略)結果は見てくれた人がいろんなふうに受け取ってくれればいいんだ、と。 出典:アニメ!アニメ! 長井龍雪氏インタビュー

『空青』制作時のインタビューで長井監督自身も語っているように、彼らの作品はキャラクターを丁寧に掘り下げる時間が多く、現実味のある物語として描かれています。

その一方で、作品を通して伝わってくるメッセージは、どこか控えめな印象がありました。


しかし、本作では制作サイドの伝えたい想いが序盤から一貫して感じられます


終盤、病室のシーンでは奈南がその想いを代弁するように語ります。

わからないからこそ考えて、想像して、関係ってそうやって続いていくもんじゃない?

つまり、「言葉と気持ちは一致しないからこそ、相手を想いやり、関係を続けていこう」というメッセージが、視聴者にまっすぐ届く構成になっている点が、非常に好印象でした。




異性という存在の危うさ

互いに「異性が何を考えているかわからない」と思うことがありますよね。そういった部分をしっかり描きたかった 出典:RealSound 岡田麿里氏インタビュー

脚本を手がけた岡田氏が語る「異性との認識のズレ」は、本作でも印象的な形で描かれています


バイト帰りの夜、1人で公園に立ち寄った秋は、ふと夜空を見上げ、満天の星に気づきます。

その直後、樹里から「ねぇ、星すごくない?」とメッセージが届き、偶然の一致に驚いた秋は、「ふれるが居なくても、気持ちが繋がれることなんて、あるんだろうか」と胸を高鳴らせます。


この出来事をきっかけに、もともと樹里に好意を抱いていた秋の想いは、次第に恋へと変わっていきます。しかし、樹里の心はすでに諒に向けられており、秋の恋は報われません。


このメッセージの場面は、まさに男女の価値観の違いを象徴しています。

深い意図もなく気軽に送った樹里と、それを「特別なサイン」と受け取ってしまう秋。その対比は、「異性の認識のズレ」というテーマを端的に表しています。


岡田氏が監督を務めた『さよならの朝に約束の花をかざろう』でもそうでしたが、彼女は女性の繊細な心理や言動を描くことに長けています。

何気ない瞬間の言葉や仕草のリアリティが、視聴者の共感を呼び、作品全体に確かな現実感を与えていると感じます。




さいごに

この制作陣による劇場アニメは本作で4作目となりますが、個人的にはこれが一番好きな作品でした。

とにかくメッセージがぶれることなく貫かれており、その意図が明確に伝わってくる点に強く惹かれました。


今後も、キャラクターの主張だけでなく、その背後にある制作陣の主張までも、より分かりやすく描いていってほしいと思います。


作品全体のメッセージや空気感は、『サイダーのように言葉が湧き上がる』にも通じるものを感じました。

本作には“ふれる”というファンタジー要素がある分、現実的なドラマよりも、『君の名は。』のような劇的な展開を期待してしまい、最終的には少し物足りなさが残ったのも正直なところです。




参考サイト

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