アニメ『駒田蒸留所へようこそ』感想|若者の葛藤に対する答え
- のろ

- 5月28日
- 読了時間: 7分
更新日:8月8日

はじめに
今回もNetflixをあさっていたら面白そうなアニメを見つけたので、見てみました。
本作は、『SHIROBAKO』や『パリピ孔明』で知られるP.A.WORKSが制作を担当し、同社の設立メンバーである吉原正行が監督を務めたオリジナルアニメ作品です。
働くことをテーマにキャラクターたちの奮闘を描く、P.A.WORKSの“お仕事シリーズ”の一作として、2023年11月10日に劇場公開されました。
この記事では、ネタバレになる要素を減らすため、あらすじやストーリー展開などは詳しく説明しません。そのため、作品を視聴していないと、理解できない考察なども含まれます。予めご了承ください。
受け継がれるウイスキーづくりと駒田蒸留所
駒田蒸留所は、その名の通り、駒田家が代々受け継いできた蒸留所です。
作中では、琉生の兄である圭が「俺が継いだら、独楽も親子3代だ」と語る場面があり、ウイスキーづくりが一時的な取り組みではなく、家業として長く継承されてきたことがわかります。
しかし、駒田蒸留所のウイスキー「独楽」は、地震の影響で機械が故障し、琉生の父・滉の代で原酒の製造が不可能になってしまいます。これを機に経営も悪化し、ウイスキーづくりからの撤退を余儀なくされます。家業を継ぐために父・滉のもとで働いていた圭は、ウイスキーづくりを諦めた父の方針に納得できず退職。その後、大手メーカーである桜盛酒造に移り、豊富な資本を背景にウイスキーづくりの再開を目指し、駒田蒸留所の買収を試みます。
一方で、圭の退職と滉の他界により、後継者不在となった駒田蒸留所の状況を見かねた琉生は、美大を中退して家業を継ぐ決断を下します。社長に就任した琉生は、蒸留所の再建に尽力し、「独楽」の復活に向けてウイスキーづくりを再開します。
家族の酒「独楽」
冒頭では、駒田蒸留所で開かれる慰労会のシーンが描かれます。
その中で、琉生が母・澪緒に「お母さんってお酒飲めたっけ?」と尋ねると、彼女は「独楽だけわね」と微笑みながら答え、独楽をゆっくりと味わいます。父・滉もそれに続いて独楽を飲み、「良い出来だ」と満足げに微笑みます。
このやりとりから、独楽が駒田家にとっていかに身近で、特別な存在であるかが伝わってきます。
物語が進む中で、琉生と兄・圭は「独楽は家族の酒」だと語ります。
2人にとって独楽は、ただのお酒ではなく、家族の絆を象徴するかけがえのない存在であり、その復活を心から願う気持ちが強く表れています。
駒田蒸留所が火事に見舞われ、傷心する琉生に、母・澪緒は「お酒のことをよく知らないし、ウイスキー作りをしていた頃も役に立てていなかったって…」と胸の内を明かします。
続けて、蒸留所を継ぐという琉生の決断は、自分にはできなかったことだと語り、その勇気ある選択に対して感謝の気持ちを伝えます。
物語のラストでは、父・滉が残したノートに、次のような言葉が記されていたことが明かされます。
毎回、母さんが口にした時の表情をこっそり見る、 その笑顔で今年も良い出来になったと確信する。
自分はウイスキーづくりの役に立てていなかったと悔いていた澪緒でしたが、彼女の存在こそが、独楽の品質を支え、滉の心の拠り所になっていたことがわかります。
働く動機が欲しい光太郎
ニュースサイトを運営する会社で働く光太郎は、「クラフトウイスキーの未来」という企画を担当することになります。しかし彼は、ウイスキーに関する知識が乏しいうえ、取材先の調査も十分に行わず、社名を間違えるなど、仕事に対する誠実さを欠く様子が序盤でたびたび描かれます。
上司の安元との会話の中で、光太郎は25歳にして現在の職場が5社目であることを明かします。また、友人の裕介に「もう辞めようかな」と愚痴をこぼす場面では、「まだ半年だろ」とたしなめられており、光太郎の根気のなさがうかがえます。同時に、仕事に対するやりがいや働くための動機を見いだせずにいる様子も描かれており、彼の迷いや未熟さがにじみ出ています。
若者を象徴する光太郎の言動
貯蔵庫の掃除中、光太郎は琉生がテイスティングノートを置き忘れていることに気づきます。中には、光太郎も思わず苦笑いしてしまうような強烈なBLイラストと共に、ウイスキーの味の記録が添えられていました。
光太郎は朝礼でノートを返そうとしますが、ふとした拍子にノートを落としてしまい、参加していた従業員たちの目にイラストが晒されてしまいます。恥ずかしさのあまり、琉生は光太郎に強い言葉で突っかかります。
仕事は全然できないくせに…(中略)取材先のリサーチはしない。それ以前に、ウイスキーのことをロクに調べてもいない。やる気あるの?
これに対し、光太郎も応じます。
あなたみたいに恵まれた人は良いですよね。(中略)やることがハッキリしていて羨ましい身分だよ
さらに言葉を続けようとする光太郎を、琉生は思わずビンタしてしまいます。初見では単なる怒りの爆発のようにも見えますが、その後、美大の授業中に他の学生の完成度の高い作品を前に、呆然とする琉生の姿が描かれます。
表向きには「後継者不在となった駒田蒸留所を継ぐ」という前向きな理由で家業に入ったとされていますが、実際には自分の絵に自信を持てず、美術の道から逃げてしまった後ろ向きな一面もあったのかもしれません。光太郎の言葉は、その葛藤の核心を突いていたからこそ、思わず手が出てしまったようにも捉えられます。
本質に気づいた光太郎
朝礼で琉生と衝突した直後、光太郎は東海林に連れられ、琉生の過去について話を聞きます。その中で東海林から語られた、次のような言葉が光太郎の心に残ります。
初めから望んでこの仕事に就いたわけじゃない。でも、アイツが羨ましく見えたんだとしたら、きっと楽しそうにやってるからだろうな
この言葉をきっかけに、光太郎はこれまでの自分の考え方に疑問を持ちはじめます。
翌日、出社した光太郎は、自分が書いた記事が好評だったことを上司の安元から知らされます。しかし、東海林の言葉が心に引っかかっていた光太郎は、「どうしてこの仕事に就いたんですか?」と唐突に安元に問いかけます。安元は、もともとは放送作家を目指していたが、紆余曲折の末に今の仕事に落ち着いたと答えます。それに対して光太郎が「それでよかったんですか?」と重ねて尋ねると、安元はこう答えます。
いいんじゃないの? 必死にやった結果、俺はこの道に出会えたんだから
この一言が、光太郎の中で少しずつ変化を生みはじめます。
物語の序盤では、働いて成果を出すために強い動機を欲していた光太郎でしたが、琉生や安元との関わりを通して強い動機がなくとも、前向きに取り組むことで成果が出ることに気づいていきます。終盤では、光太郎が新人の教育係を任され、新人から「いいなぁ、先輩は。好きなことが仕事で」と言われる場面もあり、かつての自分とは異なる姿に成長していることがうかがえます。
さいごに
物語の展開としては、全体的に伏線の回収が早く、分かりやすい反面、やや浅く単調な印象を受けました。読解が難しい場面はほとんどなく、多くの視聴者が似たような解釈にたどり着くよう意図されているようにも感じられます。
作中で圭が「どう在りたいかさえ見えていれば、どこから始めてもたどり着けるさ」と語る場面があります。始め方にこだわるのではなく、どんな終わり方を迎えるかを大切にし、その過程を前向きに楽しむべきだというのが、本作のメッセージでしょう。
光太郎と同世代の私からすると、なかなか説教臭いメッセージに感じましたが、圧倒的に正論なのでぐうの音も出ませんね。
あと余談ですが、本作では作品タイトルが物語のラストに表示されます。
大抵の劇場アニメでは、冒頭シーンの次に表示されるので、珍しい演出だなと思いました。


