『嫌われる勇気』から学ぶ。”個人心理学”という超過激なアドラーの思想
- のろ
- 3月5日
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更新日:22 時間前
目次
はじめに
今回は、ダイヤモンド社から2013年12月に発行された「嫌われる勇気」を読んだので、その内容をまとめてみました。
本書は、フロイトやユングと並ぶ心理学の巨匠アルフレッド・アドラーが提唱した「個人心理学」について、対話形式で分かりやすく解説した一冊です。日本ではアドラーの知名度はそれほど高くありませんが、世界的には広く知られ、多くの自己啓発書の源流にもなっています。
人生の意味はあるか?
結論から言うと、アドラーの見解は「人生に一般的な意味はない」というものです。多くの人に共通するような普遍的な人生の意味は存在せず、あくまで自分自身がどう意味づけるかが重要になります。
人は誰しも、客観的な世界に生きているのではなく、自らが意味づけをほどこした主観的な世界に生きています。同じ映画を見ても、同じ食事をしても、同じ話題を聞いても、人それぞれ感じ方が異なるように、同じ経験をしても生じる感情には個人差があります。
当たり前ですが、経験そのものが結果を生むわけではなく、経験に与えた意味が結果を生み出します。要するに、「世界がどうであるか」ではなく、「あなたがどう感じるか」で人生の意味が決まるということです。自分の人生に意味を与えるのは、他の誰でもなく自分自身だという意識が、個人心理学の根幹と言えます。

原因を考えるのではなく「目的」を考える
フロイトの考え方と対照的な、個人心理学の核心とも言えるメッセージが「目的論」です。これは物議を醸すほどハードな思想で、あえて容赦ない表現をすると、「トラウマを理由に、できない自分を肯定するな」という考え方になります。
例えば、一度社会に出たものの、理不尽な現実に直面し、引きこもりになった人を例に考えてみましょう。
フロイト的な原因論では、「社会が理不尽だったから、引きこもるしかなかった」と捉え、過去の原因に目を向けます。一方、アドラーの目的論では、「社会に出たくないから、引きこもるという選択をしている」と捉え、未来の目的に目を向けます。

過去にどんな出来事があったとしても、今後の人生をどう生きるかは自分次第です。不幸や不運ばかりに目を向けると、「自分が成功できない理由」として、一生過去に囚われ続けることになります。その悪循環を断ち切るために、未来の目的に目を向けることが重要だと、アドラーは述べています。
健全な精神状態のあり方
個人心理学では、健全な人間であるために以下の目標を明確に掲げています。

自分の能力を信じ、自立して生きるためには「自己受容」が重要です。自己受容とは、「ありのままの自分を受け入れる」という考え方で、自分を前向きに評価する「自己肯定」とはニュアンスが異なります。無理に自分を肯定するのではなく、たとえ平均点以下だったとしても、そんな自分を認め、普通であることに勇気を持つ。これこそが、個人心理学が目指す生き方です。
「人々はわたしの仲間である」という意識は、社会と調和して暮らすための前提条件と言えます。対人関係の結果は、相手を信じるか・疑うかによって決まります。他者を信じる選択をすれば、協力や共感が生まれますが、疑うことを選択すれば、人との距離は開き、やがて孤立してしまいます。社会との調和を望むならば、まず「人々はわたしの仲間である」と信じる勇気を持つことが不可欠です。
避けられない「対人関係」のジレンマ
アドラーは「すべての悩みは対人関係の悩みである」と唱えています。
人間は社会的な存在であり、「ここには自分の居場所がある」と感じたい普遍的な欲求を持っています。しかし、その欲求を満たすためには、必ず対人関係が関わってきます。
そして、対人関係は「他人の目」「他者との比較」「評価されたい気持ち」を助長し、時に人を苦しめる原因にもなります。つまり、対人関係は、人間の欲求を満たすために不可欠な手段であると同時に、悩みの根本にもなり得る「諸刃の剣」と言えます。
思考をシンプルにする「課題の分離」という考え方
「課題の分離」とは、「これは誰の課題なのか?」を見極めることで、不要な悩みから解放されるという考え方です。
対人関係の悩みの多くは、「他人の課題」に踏み込んだり、「自分の課題」に他人が介入してくることで生じます。 「課題の分離」を実践することで、自分が本当に向き合うべきことが整理され、余計な悩みに振り回されることがなくなります。

具体的に「人から嫌われたくない」という悩みを考えてみましょう。
個人心理学では、「相手が自分をどう思うか」は相手の課題であり、自分にはコントロールできないと考えます。重要なのは「自分はどう生きたいか」を基準に行動し、他人の評価に振り回されないことです。
もう一つ、「子どもが勉強しないのが心配」という悩みについて考えてみます。
勉強するかしないかは子どもの課題であり、親が無理に強制しても意味がないというのが、「課題の分離」の考え方です。親ができるのは「学ぶ環境を整えること」や「サポートすること」であり、実際に勉強するかどうかは子ども自身の問題であり、親が悩む必要はありません。
さいごに
アドラーが提唱した個人心理学の考え方は、シンプルで分かりやすいと感じました。特に、飾り気のない強烈なメッセージには好感が持てます。
しかし、万人に受け入れられる思想ではないというのが正直な感想です。その名の通り、個人心理学は個人にフォーカスした考え方であり、個人の視点から集団のあり方を組み立てていくものです。一方、日本のように集団意識が強い社会では、まず集団の視点から個人のあり方を考える傾向があるため、相反する部分が多いように感じました。
最後に「嫌われる勇気」を読んでいて、非常に印象に残った哲学的メッセージを紹介します。

飾り気のない、強烈なアドラーの思想が、皆さんの毎日を少しでも前向きにするきっかけになれば嬉しいです。