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言葉にする大切さ。アニメ『サイダーのように言葉が湧き上がる』解説

  • 執筆者の写真: のろ
    のろ
  • 1月28日
  • 読了時間: 5分

更新日:1 日前


総合評価

目次


はじめに

今回もNetflixをあさっていたら面白そうなアニメを見つけたので、見てみました。


監督は「四月は君の嘘」や「クジラの子らは砂上に歌う」などで知られ、キャラクターの繊細な心理描写に定評のあるイシグロキョウヘイ。本作は、「マクロスシリーズ」や「アルドノア・ゼロ」を手掛けたフライングドッグが設立10周年を記念して制作したオリジナル作品で、2021年7月に公開されました。


この記事では、ネタバレになる要素を減らすため、あらすじやストーリー展開などは詳しく説明しません。そのため、作品を視聴していないと、理解できない考察なども含まれます。予めご了承ください。




伝統や文化への愛着

本作は小田市という架空の都市を舞台に描かれていますが、モデルとなったのは群馬県高崎市です。


高崎市は「だるま」が有名であり、作中にもその要素がふんだんに取り入れられています。また、「俳句」や「レコード」も重要な要素として描かれており、これらから伝統的な文化や風習を取り入れたいという意図が感じられます。同時に、これらの文化が失われることのないよう願う想いも、物語を通して伝わってきます。




画期的なインターネットという新世界

主人公のチェリーとヒロインのスマイルが初めて会話を交わすシーンでは、「ネットならみんなと繋がれる」といった言葉が出てきます。チェリーは俳句をネットに公開し、スマイルはライブ配信を行っています。インターネットという場で気軽に情報発信をする二人の姿は、現代の10代の価値観を象徴しているのでしょう。


チェリーはスマホケースに紙の歳時記を挟んでいます。この歳時記は父から譲り受けたものであり、チェリー本人も「アプリ版もあるんだけど、本の方が何か良くて」と発言しています。このことから、古い価値観を否定するのではなく、インターネットという画期的な手段と上手く使い分けているとわかります。


さらに、チェリーと父の会話の中で、「引っ越し嫌じゃないのか?」「どこでも変わんないし、スマホがあれば」というやりとりが描かれます。その言葉を受け、寂しそうな表情を浮かべる父の姿から、世代間でインターネットに対する捉え方のニュアンスが異なることが感じ取れます。


文化とテクノロジー



コンプレックスを抱える二人

チェリーは、作品の序盤で常にヘッドフォンを身につけています。彼は自分の想いを言葉にして相手に伝えることが苦手で、人から話しかけられないように、音楽を聴いているふりをしています。そんな彼が想いを表現する手段が「俳句」であり、俳句なら上手く想いを言葉にできると自身でも語っています。


スマイルは、作中のほとんどのシーンでマスクをしています。彼女は生まれつき出っ歯で、その矯正中のため器具をつけています。幼い頃は気にしていませんでしたが、成長するにつれて、その特徴をコンプレックスに感じるようになっていきます。




ヘッドフォンをしなくなった理由

チェリーとスマイルが初めて会話を交わすシーンで、スマイルはチェリーに俳句を詠んでほしいと無茶振りをします。それに応えたチェリーの俳句に、スマイルは「可愛いと思う。チェリーくんの声」と感想を述べます


その後、二人はSNSでフォローし合い、関係が少しずつ発展していきます。スマイルがチェリーの俳句投稿に「いいね」をしたり、チェリーが彼女の配信を視聴したりする中で、互いをより意識するようになっていきます。

 

そんな日常の中で、スマイルは「そういえば最近つけてないね」と、チェリーがヘッドフォンをしなくなったことに気づきます。チェリーは「もう必要ないし」と返答し、彼のコンプレックスが解消されていることが示されます。スマイルに声を褒められ、俳句を通じて日々の想いを認められたことで、チェリーは人に自分の想いを伝えることへの抵抗感が薄れていったのでしょう。




言葉にして伝えることの大切さ

作品の序盤、俳句を公表するシーンで、チェリーの俳句に対する価値観が描かれます。「俳句って文字の芸術なのに、声に出して読まなくても…」と言うチェリーに、「声に出してはじめて伝わる情景もあると思いませんか?」と言葉が返ってきます。それに対し、当時の彼は「伝われよ。声に出さなくたって」と小さく囁きます。


スマイルのコンプレックスを知ったチェリーは、「花より先に葉が出ることから出っ歯の人を指す」という山桜を季語に、「やまざくら かくしたその葉 ぼくはすき」という俳句をSNSに投稿します。スマイルもこの投稿を目にしますが、なぜか「いいね」を押しません。その反応のなさに、自分の想いが彼女に伝わっているか確信が持てないチェリーは、明らかなフラストレーションを感じます。


山桜

チェリーが引っ越す当日、車で地元を離れる途中で、スマイルに送った俳句が彼女にしっかり伝わっていたことを知ります。ラストシーンでは、大勢の前でこれまでスマイルに向けた俳句を詠み上げ、それに応えるようにスマイルはマスクを外して素敵な笑顔をみせます。作品を通じて、チェリーは俳句への価値観を大きく変え、スマイルもチェリーに「かわいい」と認められたことでコンプレックスの解消に向けて動き出します。二人の成長が感じられる印象的な結末です。




さいごに

まずは作画が抜群に好みでした。ビビッドで可愛らしい色使いに加え、境界線をぼかしたような塗り方。とてもかわいい画風で、見た瞬間に心を奪われました。


作品の流れも理想の漫才のような構成で、程よい伏線が散りばめられ、後半に向けてピークになるよう盛り上がっていきます。作品の「言葉にして伝えることの大切さ」というメッセージも、盛り上がりがピークに達した時に明確に描かれるので、多くの人に伝わるように配慮されています。


青春や恋といったテーマも感じられるので、少し恥ずかしいような気持ちになりますが、全体を通してかなり良い作品でした。




参考サイト

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