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日常の中にある幸せ。アニメ『空の青さを知る人よ』解説

  • 執筆者の写真: のろ
    のろ
  • 2024年11月2日
  • 読了時間: 5分

更新日:1 日前


総合評価

目次


はじめに

今回もNetflixをあさっていたら面白そうなアニメを見つけたので、見てみました。監督は「あの花」「ここさけ」の人のようで、2019年公開の本作「空の青さを知る人よ」と合わせて”秩父三部作”と評されているようです。出演しているキャストの顔触れや、主題歌があいみょんなあたり、かなり気合の入った作品になっています。


この記事では、ネタバレになる要素を減らすため、あらすじやストーリー展開などは詳しく説明しません。そのため、作品を視聴していないと、理解できない考察なども含まれます。予めご了承ください。




作品の全体像と渇いた心

「ずっと探している。どんな夢も叶う場所を」という言葉から、この物語は幕を開けます。シーンとしては、ベンチに腰掛けベースの練習をしている主人公である女子高生の”あおい”が、姉の”あかね”に迎えに来てもらう何ともない日常の風景です。強烈な言葉とは対照的な日常風景のギャップに、なんだか少し違和感を感じます。


この作品を語る上で外せない要素の一つであるゴダイゴの楽曲「ガンダーラ」の歌詞にも、「そこに行けばどんな夢もかなうというよ。誰もみな行きたがる」とあります。あおいの心にある助けを求めるような渇いた想いと、渇きを潤すことのできる夢のような場所に向かって歩みを進めていく物語であることが容易に想像できます。


ガンダーラ

また、冒頭のこのシーンで、本作でカギとなる重要な回想がいくつか描かれます。序盤で作品に必要なパーツの全貌が把握でき、あとはそのパーツをどのように組み合わせていくかを検討するような構成になっています。全体像が分かった上で視聴できるため、ストレスフリーな点は非常に好感が持てます




世界から断絶された”田舎”という牢獄

姉妹の会話の中で「盆地ってさ結局のところ、壁に囲まれているのと同じなんだよ。私たちは巨大な牢獄に収容されているの」といったフレーズがあります。この発言は田舎に住んだことがある人は、ピンとくるかもしれません。


田舎

日本も江戸時代には島国の特徴を利用して、外界との接触を極端に減らす「鎖国」を行っていました。要はこのような状態が、全国各地の電車も通っていないような田舎で起こっていて、現代に則していない古い伝統が形態化した状態になっています。この変化に鈍感な生き難い社会のことを「牢獄」と比喩したのでしょう。


あかねとあおいは、幼い頃に両親を亡くしています。そのため、この変化に疎い田舎の環境と、家庭を支える安定した柱がない状況とで、より色濃く世界から断絶されているような感覚に見舞われたことでしょう。




主役を支える優しい存在

あおいは憧れている”しんの”と同じギターではなく、幼い頃からベースを弾きたいと言っています。しんのもベースの役割について「正しくリズム刻んで、みんなをフォローしなきゃなんだからな。周りの音は聞きつつ、自分のペースは乱さない」と述べており、目立った楽器ではないが演奏を支える存在であることがわかります。


あかねも彼氏であるしんのから「おにぎりの具はツナマヨが良い」と言われていますが、あおいが好きな昆布で作ることを徹底しています。この行動から、両親を失った家庭の年長者としての覚悟と責任を感じることができると同時に、自分が家庭や人生の主役ではなく、妹を尊重して裏方に回れる存在であることがうかがえます。


本作では姉のあかねは温厚で、妹のあおいは攻撃的な印象を受けますが、他人を尊重して裏方に回れる根っこの優しさは非常に似ているように感じます。




井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る

あかねがしんのと一緒に東京へ出るか、あおいと共に地元に残るかを決断するシーンは、本作で鍵となる重要な場面です。結局、しんのと別れて地元で生きていく決意をしたあかねは、卒業アルバムに「井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る」という言葉を残しています。夢を追いかけて東京という大海に出ていく選択と、現実を受け止めて地元という井の中にとどまる選択。挑戦するか諦めるかとも解釈できるその選択で、あかねは挑戦しない決断をしています。この消極的とも感じてしまう結果に、あおいは負い目を感じてフラストレーションを抱えるわけです。


井の中の蛙

しかし、あかね本人はこの決断に後悔はないと断言しているだけでなく、この道を選んだおかげで「空の青さを知った」と述べています。さて、あかねの言う空の青さとは一体何を指しているのでしょう。端的に言うと「日常の美しさ」を指していると私は感じました。もう少し掘り下げて説明すると、「閉ざされた窮屈な世界の中でただ生きていくだけの日々。そんな中にも当たり前に存在する幸せを見つけ出せる純粋さ」があかねの想う空の青さではないかと感じ取れました。




さいごに

作画の安定感。キャラの個性と関係性。明白なシーン演出。どの要素も文句のつけようがなく、上手く組み合わさっていて、100分を超える映画ではあったものの退屈に感じる時間はありませんでした。


クリエイティブな作品は、必ず作者の想いやメッセージが込められていると考えていますが、その主張はあまり感じることができない印象でした。タイトルが「空の青さを知る人よ」なので、先に述べた「日常の美しさ」といったものがメッセージなのかなと考察していますがピンとくるほどではありません。


本作において唯一納得感がない点を挙げるのであれば、恋愛を絡める必要性があったのかです。この要素をメインテーマ置いているようにも取れますが、ここに焦点を合わせて見てしまうと一気に読解が難しくなり、消化不良が起こる作品になってしまいます。これは前作の「ここさけ」でも感じた違和感でしたが、作品の設定自体がファンタジー要素が弱めな現実味を帯びたものなので、恋愛模様が複雑だと全体的に作品の意図が濁ってしまうような印象です。なんで三角関係を描きたがるのでしょうか…。




参考サイト

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