今後の印刷業界はどうなる?光山忠良『印刷業界の未来図』からわかったこと
2026/03/10

はじめに
私はしがない印刷会社に勤めています。
多くの人は、「印刷会社って何?」と思うでしょう。
例えば、出版社が企画・編集した記事を本にして売りたいという場合、記事を紙面にレイアウトして、産業用プリンターを使って大量に印刷。その紙を束ねて製本し、カバーや帯を付ける必要があります。
この印刷周辺の領域を担っているのが、いわゆる印刷会社です。
印刷といっても本や紙器、名刺や封筒。フィルムやTシャツ等の様々なアウトプットがありますが、紙と繋がりが強いものが多く、電子化や小ロット志向がうたわれる現代社会では向かい風に曝されています。
この業界にいる人は、少なからず今後の印刷市場について不安を抱えているのではないでしょうか。
今回は2024年3月13日に出版された、印刷業界専門ライターの光山忠良氏の著作「印刷業界の未来図」を読んでみました。
印刷ネット通販について
一般に印刷産業は衰退期に入ったと言われています。
そんな市場が縮小している中でも成長した企業はあり、そのほとんどはインターネットを活用したビジネスで活路を見出しています。
中でもインターネット上から欲しい印刷物を発注できる「印刷ネット通販」の威力は凄まじく、いち早くネット上に受注窓口を設けた企業から結果が出ています。
印刷ネット通販のビジネスモデルでは「効率」が第一で、型にハマらない案件は切り捨てた方が良いと述べられています。
また、低価格は最低条件なので、そういう意味でも工数が無駄にかかる案件は切り捨てる必要があります。
生成AIがもたらす影響
本の表紙を生成AIで作らせて、本文を執筆。
それらのデータをAmazonの「Kindleダイレクト・パブリッシング」にアップロードすれば、審査を行ったうえでECサイトに書籍として出品されます。
在庫レスで、注文があれば都度印刷する仕組みなので環境にも優しい。
本書はこの販路で出版されています。
この一連の流れに印刷会社の取り入る隙はなく、小ロット印刷市場は大手に食い尽くされる可能性が示唆されます。
また、AIの登場で情報伝達スピードが加速し、市場のトピックの入れ替わりが激化しています。
その観点では、新たな挑戦をしないただの御用聞き営業や職人気質の技術者は、いよいよ存在意義を失いつつあります。

経済が滞った小ロット中心の市場では、需要と供給のスピードについていけない存在はお荷物でしかありません。現状維持は相対的に見れば退化と言えます。
紙の書籍はなくなるのか?
著者の光山忠良氏は、本の象徴とも言える「聖書が紙である限り、紙の書籍は消滅しない」と述べています。
紙の書籍は、今日の情報スピードについていけない難点があります。
一方で電子媒体でのテキストの読解は、高い理解力を必要とするため、紙の書籍に比べて汎用的ではありません。

本における「調べる・学ぶ・読む」の役割のうち、「調べる」については完全にデジタルに置き換わるかもしれません。
しかし、全ての役割がデジタルに置き換わる可能性は低いと考えていいでしょう。
印刷業界のこれから
「テクノロジーは加速度的に進化している」という言葉は、成熟した斜陽産業である印刷産業には当てはまりません。
世界最大の印刷機材展であるdrupa(ドルッパ)で2008年から注目されているインクジェット印刷機が、日本の印刷会社に普及していないこの現状がそれを物語っています。
そういう意味では、テクノロジーによって左右されない安定した市場ですが、逆にテクノロジーの煽りを受けて急激に市場が活性化する可能性も低くなります。
今後も縮小の一途をたどるであろう印刷市場を鑑みて、生き残りをかけた新事業を模索する経営者も多いでしょう。
単に生き残ると言っても、どう生き残るかは大切です。
微小なニッチ領域で生き残っても、工業として成立する規模でないと、会社の柱にはなりません。
もはや印刷産業の中小企業において、ニッチ領域で生き残るほどの体力がある会社は少ないはずです。
「印刷会社だから印刷物にこだわる」という戦略は、極めて近視眼的です。
新事業を模索する際は、広い視野で思考を巡らせた方が良い結果が得られます。
さいごに
本屋に行くと大量の書籍が並んでおり、紙の本がすぐになくなることはなさそうだと感じます。
一方で、役割によってはデジタル化が進んでいるのも事実です。
特にコミックや雑誌のような定期刊行物は、読了後の扱いや利便性を考えると電子書籍が主流になりつつあります。
教育の場でも、動画で学び内容をデジタルでまとめる流れが出てきています。
検索や共有のしやすさを考えれば合理的で、教える側の世代が変われば、この流れはさらに進むでしょう。
しかし、聖書や絵本のように、感情や体験を重視する本は紙の方が適している場合もあります。
感受性に訴えるという点では、物理的な媒体の強さは依然として大きいと感じます。
また、印刷業界の視点で見ると、本書の組版や製本に違和感を覚える人もいるかもしれません。
ただし、本来の目的は内容理解であり、過度に品質へこだわるのは本質的ではないとも言えます。
今後も印刷業界は存続していくでしょう。
その中で重要なのは、何に価値があり、どこにこだわるべきかを見極めることです。
業界の枠にとらわれず、広い視点で可能性を考えていく必要があります。



