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青春と恋の爽快な物語。アニメ『夏へのトンネル、さよならの出口』解説

  • 執筆者の写真: のろ
    のろ
  • 2024年10月30日
  • 読了時間: 5分

更新日:1 日前


総合評価

目次


はじめに

今回はNetflixを眺めていたら、面白そうなアニメを見つけたので視聴してみました。原作はガガガ文庫のライトノベルで、劇場アニメーションとして2022年9月9日に公開されたようです。確かにタイトルがいかにもラノベって感じがしますよね。ちなみに監督は『アクダマドライブ』と同じ人らしいです。この作品も世界観含めて面白かった記憶があるので、深い意味はありませんが紹介しました。


この記事では、ネタバレになる要素を減らすため、あらすじやストーリー展開などは詳しく説明しません。そのため、作品を視聴していないと、理解できない考察なども含まれます。予めご了承ください。




登場人物と世界観

本作は登場人物が少ないため、非常にシンプルで理解し易い印象でした。おおよその展開は、主人公の塔野くんと、ヒロインの花城さんの二人だけで完結しています。他に塔野君の家族であるお父さんと妹が出てきますが、主要な人物はこの片手でおさまる程度の人数です。人間関係で理解力を必要としない点はかなり魅力的でした。


世界観のベースは現代の日本です。世代的にはガラケーを使用していることもあり少し前ですが、そこまで気になる点はないので誤差といえるレベルでしょう。キーとなる要素として、欲しいものがなんでも手に入る浦島トンネルという、非現実的なファンタジー要素が入ってきますが、ベースが安定している分、何の違和感もなくスッと呑み込めました。


世界観



本作の鍵となるシーン

冒頭のプロローグ部分で、海の見える小さな駅のシーンがあります。ここで主人公とヒロインが雨の中、初めて会話をすることになります。その中で「私には親なんていない」「それは良いね」「傘、貸してもらっていい?」という会話が描かれます。プロローグの他のシーンと併せると、この一連の会話で、今後の展開や考え方をはじめとする二人の自己紹介が短く簡潔に伝わってきます


二回目の駅のシーンはひまわりも綺麗に花開いており、夏を感じさせる快晴です。主人公とヒロインが共に行動するようになって、二人の距離が大きく変わったことを表現しています。一回目の駅のシーンからセリフを引用しているため、その好転した関係性がより顕著に伝わってきます。また、このシーンは主人公が初めて笑顔を見せるシーンでもあり、お互いに理解を深めあい、気をゆるせる仲になっていることがわかります。


三回目の駅のシーンは一人取り残されたヒロインが、ついに我慢できなくなって途方に暮れています。主人公の彼の姿もなく、今となっては二人の距離すら測れないといった儚さが感じられます。


本作の鍵となるシーン

時間の経過とともに描かれるこのシーンで、二人が出会ってから変化し続けてる心の距離を表現しているのでしょう。




二人が執着していたものの変化

ストーリーの終盤までは、主人公の欲しいものは「妹がいる幸せな生活」という過去に執着したものであるのに対して、ヒロインの欲しいものは「漫画を描く才能」という未来に執着したものです。二人の欲するものは対照的であり、望む世界は過去と未来でベクトルが反対に伸びています。浦島トンネルを調査している際の演出でも、二人の間に世界を断絶する壁があり、時間の流れが違いすぎるといった表現をしているシーンがあります。動かない自分に対して、目で追うのもやっとの速さで動くヒロインを前に、二度と会えないかもと思って怖かったと主人公は述べています。


ヒロインをおいて浦島トンネルに入った主人公は、失ったはずの「妹がいる幸せな生活」を手にします。取り残された彼女は、浦島トンネルの力に頼ることなく「漫画を描く才能」を発揮して人気作家となり、自分の作品を生きた証として多くの人に届けました。しかし、彼女は一番最初に自分の才能を認めてくれた彼がいない世界に価値が見出せず、いつまでも過去にしがみついて、届くはずもないメールを主人公宛に送信するようになります。その思いが実り、届くはずのなかったメールが浦島トンネルにいる主人公の元に届いたことで、彼女への気持ちに素直になり、過去への呪縛が解けます。そして、お互いに今この瞬間、相手と一緒にいたいと想うようになり、今までは逆方向に伸びていたベクトルが一致するようになりました。




さいごに

全体を通して、絵の綺麗さ、現代とファンタジーの融合、青春や恋愛がテーマなのは新海誠っぽいなと感じました。彼の作品はどれも好きなので、本作も近い雰囲気でかなり好感触でした。特に浦島トンネルにいる主人公にヒロインからのメールが届くシーンは、「君の名は。」のワンシーンを彷彿とさせるものがありました。


クリエイティブな作品は、必ず作者の想いやメッセージが込められていると考えています。今回は原作のあるアニメ作品なので、原作者やアニメ制作陣の伝えたい想いが混同していると思います。本作を視聴して感じ取れたのは「過去でも未来でもなく"今"に目を向けて生きるのはどうだろう」というメッセージでした。さらに、本作では今に夢中になるための手段として、恋愛を大きな要素として掲げています。恋は盲目というくらいなので、今に夢中になるためには有効な手段かもしれません。




参考サイト

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