top of page

印刷業界で生き残る道とは?『印刷会社の生存戦略』から学ぶ現実的アプローチ

  • 執筆者の写真: のろ
    のろ
  • 7月21日
  • 読了時間: 6分

更新日:8月8日



はじめに

私はしがない印刷会社に勤めています。

印刷といっても本や紙器、名刺や封筒。フィルムやTシャツ等の様々なアウトプットがありますが、紙と繋がりが強いものが多く、電子化や小ロット志向がうたわれる現代社会では向かい風に曝されています。


この業界にいる人は、少なからず今後の印刷市場について懸念や不安を抱えているのではないでしょうか。そのような不安定な市場の中で、印刷会社はどのようにして生き残りを図ればよいのでしょうか


今回は、2025年に新装版が発行された光山忠良の『印刷会社の生存戦略』を読んだのでまとめてみました。




印刷会社の戦い方

企業が成長戦略を立てる際に用いられる有名なフレームワーク「アンゾフの成長マトリクス」をもとに、今後の印刷会社の戦略を考えてみます。


アンゾフの成長マトリクス

すでに斜陽産業とされる印刷市場において、「市場浸透」戦略は非常に困難です。また、多くの中小印刷会社にとっては、リソースの制約から「多角化」も現実的な選択肢とは言えません。


そのため、現実的な成長戦略としては、

  1. 既存の顧客に新商品を売る(新商品開発)

  2. 新しい顧客に既存商品を売る(新市場開拓)

の順に事業を展開していくことが、堅実かつ実行可能なアプローチだと考えられます。




マーケティングの可能性

印刷という性質上、パンフレットやポスター、パッケージなど、顧客の販促物の一部を製造している印刷会社は少なくないでしょう。

そこから視野を広げ、印刷にとらわれないトータルなマーケティング支援、たとえばデジタルマーケティングを含む領域へと発展していく道は、想像に難くありません。


ただ、この道筋には多くの障壁が存在しています。特に大きな課題は以下の2点です。

  • 広告代理店やコンサルティング会社といった強力な競合の存在

  • これまでの受け身型営業から、提案型営業への転換の難しさ


このように、モノづくりを主軸としてきた印刷会社が、情報収集や企画提案を主戦場とするマーケティング会社へと変貌を遂げるのは、決して容易なことではありません




アウトソーシングの可能性

アウトソーシングの魅力は、主力事業の周辺にある煩雑なノンコア業務を外部に委託することで、自社はコア業務に専念できる点にあります。


印刷会社のように相対的に給与水準の低い企業がノンコア業務を引き受けることで、顧客はコア業務に専念できる。このような分業構造が理想です。

したがって、アウトソーシングの対象として相性が良いのは、比較的給与水準の高い大手企業ということになります。


この戦略には華やかさこそありませんが、地道に利益を積み重ねながら、過酷な印刷業界で生き残るための現実的なアプローチと言えるでしょう。


初期段階では、名刺やプレゼン資料、社内報といった些細な印刷物の発注業務から受託し、そこを足がかりとして社内に入り込みます。ゆくゆくは、事務用品の補充、設備点検、オフィスの清掃といった周辺業務まで広げていくことを目指します。


アウトソーシングの可能性

ただし、この道筋にも課題があります。

日本企業では、雇用の柔軟性が低く、簡単に人員整理を行えないため、ノンコア業務を自社内で抱え続けているケースが少なくありません。このような体質ゆえに、ノンコア業務に対する“外部化”の意識が高まりにくく、それがアウトソーシングが定着しづらい要因の一つと考えられます。




ワンストップサービスの可能性

印刷業界にいると、「ワンストップサービス」という言葉を耳にする機会があります。

この言葉は、しばしばプリプレス→プレス→ポストプレスという印刷工程の一貫生産を指すものとして使われますが、それはワンストップサービスの一側面に過ぎません。


本来の意味でのワンストップサービスとは、プリプレスよりさらに川上にある企画やコンテンツ制作(撮影、取材、執筆、デザインなど)から、ポストプレスよりさらに川下にあるロジスティクス(発送、在庫管理、顧客データ管理など)までを包括する、広範囲なサービス提供を指します。


ワンストップサービスの可能性

このワンストップサービスの展開方法には、主に以下の2つが考えられます。

  1. 川上から川下までのすべてを一貫して担う「垂直展開」

  2. 川上または川下のいずれかに特化して強化する「水平展開」


多くの顧客は、業務の手間を減らすために、可能であれば一括で発注したいというニーズを持っています。

すでに印刷工程を受注できているのであれば、その入口(企画・制作)や出口(物流・管理)までを引き受けることは、決して高いハードルではありません




誰をバスに乗せるのか

今後の戦略を考えるうえで、どの方法で攻めるかを決めるだけでは不十分です。その戦略を「誰が」実行するのか――この議論は、避けては通れません


Macintoshの登場とともに、Adobe製品をはじめとするクリエイティブツールが普及し、誰もが手軽にマルチメディアでのアウトプットが可能な時代になりました。

印刷会社もこの流れを受け、DTPという制作工程を確立し、組版の領域においてデジタルツールを積極的に取り入れてきました。他業界と比べて、導入が大きく遅れたとは言えないでしょう。


しかし、印刷という概念から脱却できず、Adobe製品を「組版ツール」としてしか認識しなかった企業も多く見受けられます。その結果、動画・Web・3Dといった多様なメディア制作の可能性を十分に活かしきれませんでした。


先途のマーケティングの可能性でも書いた通り、 既存の印刷部門の人材や体制をそのまま新規領域へ移行させることは、現実的には難しいと言えるでしょう。


AI時代に突入し、技術は半年単位で大きく進化しています。

そんな中で、印刷という固定概念に囚われて変化を拒む人材は、バスには乗せない方が賢明かもしれません。




さいごに

全体を通して、「正論すぎて胸が痛い」という印象を受けました。

給与水準の低さをあえてメリットとして活用することや、もはや印刷にこだわっている場合ではないという現実的な結論には納得感があります。しかし、印刷業界に長く身を置いている人にとっては、素直に受け入れるのが難しい内容かもしれません。


とはいえ、希望的観測に基づいた現実逃避は避けるべきです。

本書が示す現実をしっかりと受け止め、その中にある可能性を正しく捉えながら、今後の印刷市場で生き残るための道を模索していく必要があると強く感じました。




参考サイト

bottom of page